「汐美学園を、もっともっと楽しくしませんか?」
何か悪いものでも食べたのか、彼女──白崎つぐみは言った。
前振りがあったわけでもない。それ以前に、彼女と知り合いだったわけでもない。
唐突に、白崎は言ったのだ。
「そういう話なら、生徒会に掛け合った方がいいと思うけど」
と、喉まで出かかった言葉を腹の底まで押し戻したのは、俺──筧京太郎の悪癖だった。
情に棹させば流される、とは有名な小説の一節だが、しばらく後の俺の心境はまさにそれだ。
川の果てまで流れ流され、河口付近を漂っていた俺の周囲には、同じように流された奴らが集っていた。
桜庭玉藻、
御園千莉、
鈴木佳奈、
高峰一景、
そして、なぜか通りがかる、小太刀凪。
最高の読書空間だった部室は、もはや昼休みの教室と変わらない有様だ。
「ええと、今日の活動ですが、カフェテリアの……」
聞き慣れた台詞を、白崎つぐみが口にする。
「あ、そういえば、カフェテリアの新メニュー食べました?」
「おっ、佳奈ちゃんも気になった? あの子、可愛いよね。俺、スレンダーな子が好みでさ」
「話を逸らすな。あと高峰、鈴木はウェイトレスの話なんてしてないし、お前の好みはどうでもいい。そもそも……」
「玉藻ちゃん、話題が余計に逸れて……。ほら、御園さんがこっちを怖い目で」
「睨んでます。なので筧先輩、ここで目の覚めるようなオチを一つお願いします」
「いや、オチとか関係ないし」
今日もまた、寄り道だらけの活動が始まる──

巨大な汐美学園にあって、二人しか部員がいない「ネコ写真部」。
ひたすらネコの写真をとり続けるという部活動だ。
そこで主人公の桐島慶と、幼なじみの土岐のぞみだけが活動しているところに、二人の田舎から
妹分である藤宮朔夜がやってきた。
「慶ちゃん、泊めて!」
──なんでも、家出同然に家を飛び出してきたのだという。
朔夜の実家は古い旅館を営んでおり、街を出ることに反対されているのを振り切って、
汐美学園に入学してきたのだった。
そんな朔夜もネコ写真部に入ったところで、学内一ネコが集う通称『ネコ広場』に
新校舎建設との報が。
三人の生活はどうなるのか、そしてネコ写真部は……。

「図書部は永久に不滅ですっ!!」
高らかに謳い上げる佳奈すけはスルーして、今日も図書部は平常運転。
他愛もない冗談を飛ばしつつ、無茶な依頼に立ち向かう。
春から代わり映えしない俺たちだが、一つだけ明らかに変わったことがあった。
それは──

俺の隣に、いつも『彼女』がいるってことだ。

周囲は、『バカップル』だの『消え去れ』だの
『野生の王国』だの言うが、まったく意味がわからない。
俺は、どっちかと言えばドライな方だし、そこらの奴らみたいに
人前でイチャついたりしない。
模範的カップルとして表彰されてもいいくらいだ。

「俺たち、清く正しく付き合ってるだけだよな?」
隣の彼女に問いかける。
「ぼふぉふぉふぉふぉ」
「……」
いつの間にか隣に座っていたデブ猫を、速やかに黙らせた。

今日も図書部は平常運転。
春から代わり映えしない俺たちだが、もう一つ変わったことがあった。
それは──

あの頃より、今の方が何倍も楽しいってことだ。

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